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【Press_release】公共事業からの脱却を目指し、新天地で家づくりと 企画提案型建設業へ挑戦した地方工務店

林産地との出会いをきっかけに飛躍、グループ年商 200 億円に迫る新聞紙を原料とする国内初のゼロ・カーボン断熱材も開発

福岡県・山口県を中心に地域の木や職人の技を生かした木の家の注文住宅を提案する株式会社安成工務店(本社: 山口県下関市、代表取締役:安成 信次)は、昨年創業 70 周年を迎えました。山口県豊北町(現下関市)の工務店 からスタートし、先代社⾧の急逝、政治闘争に巻き込まれ公共工事からの撤退を余儀なくされる等の紆余曲折を経 て、地域に根差した家づくりから現在では病院やビル、まちづくりまで手掛け、グループ会社の年商は 200 億円に 迫っています。飛躍のきっかけとなった「環境共生住宅との出会い」や、家づくりの現場の課題から開発した国内初 のゼロ・カーボン断熱材等、まちづくりや地方創生に向けて歩んできた社⾧の想いについて紹介します。  
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安成信次(やすなりしんじ)
山口県豊浦郡豊北町(現在の下関市豊北町)出身。1956 年 2 月 12 日生まれ。77 年日本大学生産工学部建築工学科卒業、大手建 設会社を経て 81 年に安成工務店入社、88 年先代の急逝に伴い、同 社代表取締役就任。2019 年 YASUNARI ホールディングス代表取締 役就任。全国 3,000 社の工務店が加盟する一般社団法人 JBN・全 国工務店協会の副会⾧、NPO 環境共棲住宅・地球の会理事⾧、日本 セルロースファイバー断熱施工協会会⾧などを務める。 著書に『家づくりの品格』(風土社)がある。 

■政治闘争が原因で地元の公共事業の指名から排除され、地域ゼネコンとして崖っぷちに 悔し涙の中、知名度もない新天地において「家づくり」と民間建築受注で生きていく事を決意

1951 年に山口県豊北町(現下関市)で工務店としてスタートした当社は、昭和 40 年代には鉄筋コンクリートを得 意とし、町内ナンバーワンのゼネコンとして公共工事を請け負っていました。しかし、当時応援していた町⾧の落選 により、公共工事の指名業者から意図的に排除されるという危機に直面します。思いがけない理不尽な扱いに悔し涙 を流しながら 1983 年に下関に本社を移転、二度とこのような思いはしたくないと、新たな地では民間工事に活路を 見出すこととなりました。更に 1988 年には当時の社⾧が急逝、当時若干 32 歳の安成信次が社⾧に就任します。新 天地で知名度もない中で、営業の経験も商品といえるものすらなかったため、御用聞きのようなことしかできない中 でのスタートでした。この時から、受注型の請負業ではなく設計施工や企画提案力を持った地域で生き残る工務店と しての道を目指すことになります。  

■ “地域で生きる工務店”の在り方を模索する中、環境共生住宅との出会い

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下関に移転後、時代の流れに合わせるようにデザイン・機能・コストを重視した家づくりに取り組むようになりま す。しかし、安成は次第に「大工工務店を原点とする当社が、このままプレハブメーカー等の工業化住宅と競っていて いいのか?」という疑問を感じるようになります。地域で生きる工務店としてどんな家を建てるべきなのか?を模索す る日々が続きました。そんな中、1989 年に環境共生住宅と出会います。地球温暖化や環境保全の観点から、太陽熱を屋根で集熱し住まいのエネルギーとして利用する※OM ソーラー システムの先進性に魅力を感じ、そのパッシブな思想は戦後の 住宅建築のアンチテーゼのようでもあり、安成は「自分たちが 進むべき道はここにある」と実感しました。 これを機に、当社では地域気象データに基づき太陽光や雨水 などの自然エネルギーを取り込むことで快適な温熱環境をつく りだす環境共生住宅づくりに乗り出すこととなりました。 ※OM ソーラーとは…太陽の熱を屋根で集熱し、暖かい空気を 床下に送り、床暖房、給湯、換気などに利用します。自然の力 を活かして、夏は涼しく、冬は暖かく、健康で快適な暮らしを 実現します。

■省エネ性は進化しても現場での課題「断熱欠損」が取り残されている現状に直面 工務店として異例ながら、巨額の設備投資を行い断熱材の製造を手掛ける英断に

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環境共生住宅に取り組む中、今度は設計時のシミュレーション と実際の温熱実測結果が異なるという課題に直面、原因が断熱材 の施工不良(断熱欠損)にあることに気が付きました。住宅に求 められる省エネ性が年々高まる中、適切な設計がされていても、 隙間なく正しい施工がされていなければその断熱性能や、断熱性 能がもたらす省エネルギー性も担保されません。
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そこで、「断熱欠 損を生まない断熱材とその施工方法」を模索、1993 年には新聞紙 を主原料としたセルロースファイバー断熱材の採用を決定、1996 年には子会社を断熱材メーカーに業態変更し、その後製造にも乗 り出します。工務店として断熱材の製造まで手掛けるのは異例で あり、巨額の設備投資を要する大英断でした。2011 年には建築用 断熱材として日本で初めて CO2 排出量を計算し、CFP(カーボン フットプリント)の認定を取得、2012 年には日本初のゼロ・カ ーボン断熱材(※)に認定されています。 ※ 主にトライ・ウッド(下記参照)の間伐推進プロジェクトか ら創出される J-VER クレジット(森林吸収系)と、デコスファ イバーの排出量を相殺、CO2 排出量実質ゼロを実現。  

■自身を変えたもう 1 つの出会い、地域の林産地との連携。ウッドショックも影響は最低限に セルロースファイバー断熱材も活用し、建設時の CO2 排出 12.3%削減に成功

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1996 年には日田市上津江町で林業を行う株式会社トライ・ウッド と出会い、「津江杉」を直接購入する仕組みを整えました。近隣の材 木を使うことで、山と街の交流をつくり、山と連携した家づくりを 九州で本格的に行おうと考えたのです。この出会いを機に当社は新 建材から自然素材に切り替え、直接購入を可能にするための安定し た需要を林産地に約束しています。年間使用量を決めて予約してい るため、今回のウッドショックによる木材価格高騰の影響も最小限 に抑えることができました。また、2006 年よりトライ・ウッドでは 九州大学にも協力を仰ぎ、「輪掛け乾燥」を復活させました。自然の 力だけで木材を乾燥させる昔ながらの乾燥方法で、石油を使わない ため、乾燥工程において CO2 を排出しません。その他にも新聞紙をリサイクルしたデコスファイバー断熱材や、床の無垢材や壁の珪藻土仕上げ等を採用することで、一般的な住宅と比較して建設時のイニシャル CO2 を 12.3%削減 することに成功しました。1 棟当たり CO2 排出量に換算すると約 4.5 トンであり、これは 40 年生の杉の森 5000 ㎡に 1 年間に吸収する量の排出抑制が期待されます。

■九州大学との共同研究で「木の家が住まい手の健康に及ぼす影響」の証明にも挑戦中

一方、2013 年より林野庁の助成金を受け、木の家が住まい手の健康に及ぼす影響について九州大学、トライ・ウッ ドと共に共同研究を開始しました。作り手として木の家の良さは実感していた安成ですが、「広く理解してもらうた めには科学的な証明が必要だ」と考えました。九州大学のキャンパス内に実験棟を建て、リラックス効果や集中力の 向上、認知症抑制など住む人の健康の向上に繋がるエビデンスを取得、新型コロナ感染拡大をきっかけに 2020 年か らはウィルスへの感染力低下も研究しています。今後はこれらを工務店や消費者へ訴求していくことで、住まい手の 健康増進と国産材普及も目指しています。
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九州大学キャンパス内の実験棟
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■2025 年度の新築住宅省エネ義務化や脱炭素の流れから「デコスファイバー」の需要も増加

2025 年度には新築住宅の省エネ基準適合義務化もスタートするなど、年々高まる省エネ・脱炭素社会への意識か ら、デコスファイバーも売り上げを伸ばし、施工代理店は 72 社(2022 年 7 月現在)、累計施工棟数は 30,000 棟 にも上っています。2016 年の熊本地震では「被災者ファースト」を掲げた木造応急仮設住宅において採用され、そ の性能が入居者から高く評価されました。入居者の生活再建の際には、新居でも採用したいとの声が上がり、熊本県 での売り上げを大きく伸ばし、全国から仮設住宅建設に駆け付け、デコスファイバーを知った職人が地元で採用する ケースも続き全国に広がりました。  
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デコスファイバーの累計施工棟数 
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デコスファイバーを採用した熊本地震の木造応急仮設住宅

■まちづくり・地方創生を担う会社を目指し、グループ売上 200 億円に迫るまでに成⾧

YASUNARI グループは現在全 13 社にも広がり、年間約 200 棟の住宅建設の他、クリニックや賃貸マンション、事 務所・工場などの建築を企画提案、設計・施工で行っています。また、テナントのリーシングまでを行う商業開発も 手掛けるなど事業の多角化により安定経営を図り、グループ売上は 200 億円にも迫ります。多角化経営の背景には、 将来的にまちづくりや地方創生を担える会社になりたいとの安成の想いがありました。こうしたまちづくり・地方創 生に取り組むためにはいわゆる受注業態から脱し、企画提案型建設業に転換する必要があります。そこで安成は自社 のみならず多くの地方建設業にも事業転換を勧めるため、令和 4 年 3 月に「新・建設業 地方創生研究会」を発足、 最新情報を共有しつつデザインビルド型建設業の実務を学ぶなど、地域のまちづくりプレーヤーの結集を呼び掛けて います。